東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)382号 判決
一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがない。
そこで、以下に原告が主張する取消事由について判断する。
二 原告は審決に手続上の違反がある旨主張するが、成立に争いのない甲第一号証(昭和五五年六月二三日付拒絶理由通知書)、第六号証(審決謄本)によれば、被告が審判手続において、昭和四二年四月二二日付明細書について通知した拒絶理由は、審決の理由の要点2に不明瞭、不完備な個所として摘示された同明細書中の記載からみて、「本願発明の目的、構成、作用効果を正確に理解することができないから、本願の発明は旧特許法一条の工業的発明と認めることはできない。」というにあるところ、原告はこれに対し、昭和五五年八月一三日付で意見書及び全文訂正明細書を提出したこと(全文訂正明細書と昭和四二年四月二二日付明細書及び図面の内容から実質的に同じであることは原告の認めるところである。)、被告は全文訂正明細書についても検討した結果、前記拒絶理由により指摘した点は解消しておらず、本願発明は旧特許法一条の「工業的発明」と認めることはできない、と判断したものであることが認められる。
そして、右判断は後記三に述べるとおり、正当であると認められ、この事実によれば、被告は前記拒絶理由とは別個の理由で本願を拒絶したものではないということができるから、原告の主張を採用することができないことは明らかである。
三1 成立に争いのない甲第四号証(昭和五五年八月一三日付全文訂正明細書)、第五号証の一ないし三(同日付添付図面)、第二四号証(昭和四二年四月二二日付訂正書)第二五号証の一ないし三(同日付添付図面)を総合すると、本願明細書には、一般に使用されていないところの原告独自の理解に基づく難解な用語もしくは表現形式が用いられているうえ、文章自体に難解で不明瞭な点が多いので、本願明細書の記載内容を正確に理解することは極めて困難であるといわざるを得ないが、要するに、本願発明は、請求の原因四1において主張する基本的原理が技術的に成り立ち得るとの前提で、並列らせん体のらせん翼の回転による遠心力を利用して、外筒内の入口より出口に移行する流体を相手らせん体のらせん翼の迎え角斜面の正面部に作用させることによつて、ねじポンプ、ねじ圧縮機においてできるだけ大きな動力を回収することを目的として、特許請求の範囲に記載(請求の原因二)したとおりの構成を採用したものであることが認められる。
2 しかしながら、原告が主張する基本的原理なるものは、技術的に成り立ち得るものではなく、被告が主張するように、本願発明の特許請求の範囲に記載された構成によつては、本願発明が目的とする流体の効率的な利用はとうてい期待できないものといわざるを得ない。すなわち、前掲各証拠によると、本願発明の装置において、入口から送られた流体には、らせん翼の上下面よりその回転による遠心力が作用し、らせん翼が互いに入り込む部分(間隙7、8)に放出されるとしても、放出される流体は互に逆方向となつて衝突し、相互に激しく混ざり合い、流体の有する速度エネルギは圧力エネルギに変換され、流体の粘性によつて互に逆向きの摩擦力が作用し、激しい渦となつてエネルギの損失をきたすとともに、装置の入口と出口間の圧力差のため、らせん翼間に設けた間隙7、8を通つて流体が入口側に逸出し流体の漏洩が生ずることが認められる。
このように、本願発明はエネルギ及び流量において損失が生じるという基本的な欠陥が生じるので、その損失は単なる許容範囲というものではなく、本願発明の装置によつては、流体の効率的な利用ができず、ねじポンプ、ねじ圧縮機としての機能を有しないものというほかない。
この点に関し、原告が本願発明の基本的原理、拒絶理由に対する反論及び被告の主張に対する反論として主張するところは、いずれも明細書及び図面に基づくものということはできず、その点は措くとしても、右に述べた流体の運動に照らし理由のないことは明らかであつて、技術的に理解することができない。
そうであれば、結局、本願発明は、ねじポンプ、ねじ圧縮機として基本的な欠陥を有するもので、原告の主張にもかかわらず、明細書、図面によるも、また、技術的観点からも、旧特許法一条にいう「工業的発明」にあたるものと認めることはできないのであるから、この点に関する審決の同旨の判断に誤りはない。
四 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法のあることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却することとする。